犬の膿皮症について|最も一般的な皮膚病の一つである膿皮症について獣医師が解説
犬の膿皮症という病気を聞いたことはありますか?
動物病院で最も診断されることが多い皮膚病の一つですね。
しかし、動物病院での診断頻度とは裏腹に、膿皮症を正しく治療ができていることは非常に少ないです。
今回はこの膿皮症について皮膚科に特化した動物病院である当院の獣医師が解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬を膿皮症から守っていただければ幸いです。
📍 目次 ▼ 膿皮症とは |
膿皮症とは
膿皮症とは、何らかの原因で皮膚のバリア機能が低下し、皮膚の表面で細菌が異常に増殖する病気のことです。
異常に増殖する菌は元々皮膚の表層や毛包に存在する細菌で、ブドウ球菌という細菌であることが多いです。
細菌が原因であると聞くと
「他の犬にうつされちゃったのか…」
「他の犬にうつさないか心配…」
と思われる方も多いですね。
しかし、膿皮症の原因となる菌は元々皮膚に存在する細菌なので、他の犬にうつることはありません。
皮膚での細菌の異常な増殖は、皮膚のバリア機能が低下することだけが原因となるわけではなく、高温多湿な環境であることも原因となります。
日本では夏になると遭遇頻度が増えてしまいますね。
犬の膿皮症のタイプ
犬の膿皮症には
- 表面性膿皮症
- 表在性膿皮症
- 深在性膿皮症
の3つのタイプがあります。
表面性膿皮症
表面性膿皮症とは表面で細菌が増えた状態のことです。
顔のしわや陰部のしわに多く、表面が軽く赤くなる程度のことが多いです。
表在性膿皮症
表皮や毛包といった皮膚の浅い部分での細菌の感染症のことです。
単に膿皮症というときはこの表在性膿皮症のことを指すことが多いですね。
表在性膿皮症は、初期には赤いブツブツができる病変である丘疹や、白い膿を含んだニキビのような病変である膿疱が見られます。
症状が進行すると
- 痒み
- 赤み
- フケ
- 円形のかさぶた
- 膿疱が破裂した跡(表皮小環)
が出始めます。
時間が経ったり、再発を繰り返すことで炎症の後にメラニンという色素が沈着し、黒っぽくなることもあります。
深在性膿皮症
皮膚の深部である真皮と皮下組織におこる細菌の感染症のことです。
痒みなどの表在性膿皮症の症状に加え、
- おできのように腫れる(せつ腫)
- 出血
- 膿
- 潰瘍
- 発熱
などの症状も見られることがあります。
深在性膿皮症はジャーマンシェパードで多いと言われています。
表面性膿皮症や表在性膿皮症で原因となることが多いブドウ球菌だけではなく、大腸菌、緑膿菌などの細菌が原因になることも多いです。
特に緑膿菌は日和見感染の原因菌として知られ、免疫力が低下することで感染する菌と言われています。
深在性膿皮症以外にも全身に免疫力を低下させる基礎疾患を持っている可能性があることに注意しましょう。
膿皮症の治療
皮膚病変から細菌が顕微鏡で観察されたら膿皮症と診断され、治療が必要になります。
膿皮症の治療には画一的な方法はなく、状況に合わせて選択する必要があります。
ここでは膿皮症の治療について解説していきます。
外用療法
外用療法にはシャンプー、塗り薬などがあります。
主にこれらのものには抗菌・殺菌作用のある成分が含まれていることが多いです。
抗菌・殺菌作用のある成分には以下のものがあります。
- クロルヘキシジン
- 過酸化ベンゾイル
- ポピドンヨード
- 乳酸エチル
- ティーツリーオイル
- ヒノキチオール
- セイヨウナツユキソウの抽出物
- ボルド葉の抽出物
それぞれ解説していきます。
クロルヘキシジン
2〜4%の濃度のクロルヘキシジンはブドウ球菌に対して高い効果が証明されています。
クロルヘキシジンは様々な薬に耐性を持つ多剤耐性菌にも効果があり、膿皮症を繰り返してしまう場合にも使われます。
クロルヘキシジン自体には皮膚への刺激性も少ないため、膿皮症の治療で最も使われている成分の一つですね。
過酸化ベンゾイル・ポピドンヨード
過酸化ベンゾイル、ポピドンヨードは非常に抗菌効果の高い成分です。
しかし皮膚への刺激性が強く、クロルヘキシジンを使う以上のメリットが少ないため、今では膿皮症で使われることは少なくなってきました。
乳酸エチル
乳酸エチルは皮膚のpHを下げることで抗菌効果を示します。
皮膚ではpHが上がることで細菌が増殖しやすいです。
例えば、多汗症では汗によって皮膚表面のpHがアルカリ化しやすくなりブドウ球菌が増える傾向にあります。
乳酸エチルは多汗症のように皮膚表面のpHがアルカリ化してしまうことで発症した膿皮症に対して効果のある成分です。
ティーツリーオイル・ヒノキチオール
ティーツリーオイルやヒノキチオールにはマイルドな抗菌作用があります。
ブドウ球菌の感染が旺盛な初期にはクロルヘキシジンなどの抗菌成分が含まれたシャンプーを使用し、感染がコントロールされたらティーツリーオイルやヒノキチオールのようなマイルドな抗菌成分が配合されたものへ変更するのが良いですね。
セイヨウナツユキソウ、ボルド葉の抽出物
皮膚からは抗菌ペプチドという抗菌活性のある物質を産生しています。
セイヨウナツユキソウやボルド葉の抽出物はこの抗菌ペプチドの産生を促す可能性があるため、シャンプーなどに配合されることがあります。
入浴
膿皮症に対しては入浴、入浴後の保湿も有効です。
入浴時にはここまで解説した成分が含まれているシャンプーも使用すると良いでしょう。
入浴には硫黄泉や炭酸泉が使われます。
硫黄泉
硫黄は毛穴のクレンジング効果が高いです。
毛穴に一致した病変がある場合は硫黄泉を積極的に検討すると良いでしょう。
炭酸泉
膿皮症は皮膚の表面のpHがアルカリになると悪化する傾向にあります。
炭酸泉は皮膚のpHを酸性に傾けることで抗菌効果を示します。
内服療法
内服療法では抗菌薬を数週間投与します。
しかし現在では、抗菌薬に対して耐性を持っている多剤耐性菌が社会問題となっています。
そのため、投与の前にその抗菌薬が本当に効くのかどうか薬剤感受性試験を行うことが非常に増えてきましたね。
漫然と抗菌薬を使用することや、獣医師から指定された期間や投与法を守らずに抗菌薬を投与することは、耐性菌を作ることを助長するため、しないようにしましょう。
また、体の免疫力を高めるために乳酸菌製剤などのサプリメントを使うこともありますね。
治らない・再発を繰り返す膿皮症はどうする?
一回の治療で治らない場合、再発を繰り返す場合は、体に別の問題があることが考えられます。
ここでは膿皮症が治らない・再発を繰り返す理由を解説します。
他の皮膚疾患の可能性がある
膿皮症の治療がうまくいかなかったら、まずは他の皮膚疾患の可能性を考えなければいけません。
他の皮膚疾患には
- 真菌
- 寄生虫
- 免疫疾患
- 皮膚の癌
などが挙げられます。
全身を確認後、血液検査、画像検査、詳しい皮膚の検査を再度行い、治療方法を変える必要があります。
多剤耐性菌の存在
治りにくい膿皮症の場合は普通の細菌が原因になっているわけではなく、多剤耐性菌が原因になっていることがあります。
膿皮症の原因となる細菌のうち30〜40%は、抗生剤に耐性を持つブドウ球菌であったという報告もあります。
多剤耐性菌が原因となっている膿皮症の場合は薬剤感受性試験を行い、適切な抗菌薬を投与する必要があります。
膿皮症が悪化しやすい体質
犬の体質には脂漏症や多汗症という膿皮症が悪化しやすくなるものがあります。
脂漏症の時は適切な皮脂落としと保湿が必要になりますね。
多汗症では角質層が軟化したり、皮膚表面のアルカリ化によって細菌が増えやすくなります。
炭酸泉や乳酸エチルのような皮膚のpHを酸性に傾けるものを使うと良いでしょう。
多汗症は脂漏症と混同され、積極的な皮脂落としが行われる場合も多いので注意が必要です。
また、発汗はストレスによっても引き起こされます。
ストレスケアも非常に重要ですね。
アレルギー性皮膚炎を持っている
アレルギー性皮膚炎には犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーがあります。
ヨークシャーテリア、ミニチュアシュナウザーは多汗症と犬アトピー性皮膚炎を併発することが多いから注意が必要ですね。
犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーは皮膚のバリア機能が低下しているので細菌が増えやすいです。
犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーは、環境中のアレルゲンを回避するために環境中の清掃や服の着用を検討したり、食物中のアレルゲンを回避するのが良いでしょう。
クロルヘキシジンなどが含まれるシャンプーを使っているのに膿皮症が治らない場合は、刺激の強い界面活性剤が含まれるシャンプーによる頻回の洗浄により皮膚へのダメージが出る犬アトピー性皮膚炎が背景にある可能性が疑われます。
犬アトピー性皮膚炎が背景にある場合は、低刺激の界面活性剤と保湿成分が含まれたものを使うのが良いでしょう。
内分泌疾患を持っている
膿皮症が治りにくい場合は内分泌疾患を持っていることがあります。
内分泌疾患は中年齢以降で発症することが多いです。
内分泌疾患には
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
- 甲状腺機能低下症
などがあります。
これらの内分泌疾患を持っている場合は適切なホルモン剤を投与しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
膿皮症は非常に遭遇頻度の多い病気ですが、一つの治療では治らない複雑な病気です。
動物病院で獣医師としっかり相談し、最善の治療を選べると良いですね。
当院は皮膚科診療に力を入れている動物病院です。
膿皮症でお困りの方はぜひ当院までご相談ください。
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