歯が割れてしまったら 〜抜髄根管治療のご紹介〜
歯の破折や摩耗は、硬いものを咬んでいたり、顔をぶつけた際に歯が割れたり削れてすり減ってしまう、犬猫では決して珍しくない外傷の一種です。
そんな割れてしまった歯を温存するために行う治療、それが抜髄根管治療です。
抜髄根管治療とは
歯が深く割れたことで歯髄が露出した状態(露髄と言います)では、細菌の感染や疼痛を引き起こす場合があります。 抜髄根管治療は露出した歯髄を取り除き、詰め物を行うことで細菌感染や疼痛を防止し、歯としての機能を温存します。
抜髄根管治療の流れ
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割れた歯の観察やレントゲンの撮影等を行います(写真では左上第4前臼歯に破折と歯髄の露出が認められます)。
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歯の表面に器具挿入用の穴を開けます。
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汚染された歯髄を除去し、ファイルと呼ばれる器具で根管(歯髄の入っている管)を拡大しながら消毒します。
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拡大した根管に詰め物を充填します。
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コンポジットレジンと呼ばれる被せ物で穴を塞ぎ、自然な形に成形します。
抜髄根管治療のメリット、デメリット
メリット |
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デメリット |
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割れた歯を残したい方へ
抜髄根管治療は人では深い虫歯などで行われる比較的ポピュラーな治療の一つですが、動物ではこの治療を行える病院が少なく、歯が割れてしまった場合の治療法として抜歯を提案されることが多いのが現状です。
しかし、抜歯をしてしまえばインプラントや入れ歯が難しい動物達はその歯を取り戻すことはできません。もし歯が割れてしまったとしても、残してあげられる可能性があります。こちらの治療に興味がございましたらぜひお気軽にご相談下さい。
抜髄 before&after case1
症例情報
犬種:ワイヤー・フォックス・テリア
年齢:7歳
主訴:数ヶ月前に歯が割れ、出血している。
診断・治療
診断名:右上第4前臼歯の複雑性破折
右上第4前臼歯が破折しており、歯髄の露出(歯の表面の赤い部分)が認められました。幸い歯根周囲に細菌感染を疑う所見は認められませんでした。飼い主様が歯の温存を希望されたため抜髄根管治療を行いました。
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処置前写真
第4前臼歯表面に歯髄の露出箇所が認められます。
歯石除去後
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処置中写真
各歯根内の歯髄を除去しています。
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処置後写真
詰め物の後コンポジットレジンという被せ物で穴を塞いで完成です。
現在の経過
治療後、患部の痛みを示すことはなく、食事もいつも通り食べることができています。
メッセージ
奥歯の破折は意外と多い外傷の一つです。特に硬いおやつ(骨やひづめ、ヒマラヤチーズなど)は歯が割れるリスクがあるため与える際には注意する必要があります。
今回のケースのように受傷後数ヶ月経過していても、抜髄根管治療によって歯を温存できる可能性があります。気になる方はお気軽にご相談ください。
抜髄 before&after case2
症例情報
犬種:ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
年齢:8歳
主訴:金属製の器を噛んで犬歯が割れてしまった。
診断・治療
診断名:右上犬歯の複雑性破折
右上犬歯が破折しており、歯髄の露出(歯の表面の赤い部分)が認められました。幸い歯根周囲に細菌感染を疑う所見は認められませんでした。飼い主様が歯の温存を希望されたため抜髄根管治療を行いました。
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処置前写真
右上犬歯が大きく割れてしまっており、わずかですが歯髄の露出が認められます。
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処置中写真
歯根内の歯髄を除去しています。
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処置後写真
詰め物の後コンポジットレジンという被せ物で穴を塞いで完成です。被せ物の強度の都合上歯の高さは低めに成形しました。
現在の経過
治療後、患部の痛みを示すことはなく、食事もいつも通り食べることができています。
メッセージ
歯が割れてしまった際、多くの病院では無治療での経過観察か、抜歯を提案されることが多いのが現状です。無治療では将来的に歯髄からの感染を引き起こす可能性や、神経の露出による強い痛みを伴う場合があります。抜歯をすればそのような事態は防げますが、犬歯は象徴的で目立つ歯ですので、抜いてしまうことに抵抗がある方も多いと思います。受傷からの時間が短ければ短い程感染のリスクも下がり、歯を温存できる可能性が高まりますので、歯が割れてしまった際は早めの診察をお勧めします。
抜髄 before&after case3
症例情報
犬種:柴
年齢:6歳
主訴:数ヶ月前に犬歯が一部欠けてしまった。様子を見ていたが食事の度に痛がるような仕草があり、今では食事以外でも痛がるようになってしまった。
診断・治療
診断名:右上犬歯のエナメル質欠損に伴う知覚過敏
右上犬歯の後縁にエナメル質の剥離が認められました。明らかな歯髄の露出や感染、壊死等の所見は認められませんでしたが、剥離部分からの知覚過敏を疑いました。被せ物でエナメル質を保護する治療は被せ物が外れると症状が再燃するリスクがあること、遠方の飼い主様で複数回の通院が難しいことなどから、過敏に反応する元の歯髄を取り除く抜髄根管治療を行いました。
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処置前写真
右上犬歯の後縁のエナメル質が薄く剥がれています。
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処置前レントゲン画像
明らかな亀裂や感染像は認められません。
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処置中写真
歯根内の歯髄を除去しています。
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処置後写真
詰め物の後コンポジットレジンという被せ物で穴を塞いで完成です。
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処置後レントゲン画像
歯髄腔に白く写る詰め物が入っています。
現在の経過
療後、患部の痛みを示すことはなく、食事もいつも通り食べることができています。
メッセージ
歯が少し欠けてしまうことは珍しくありません。歯髄の露出がない場合無症状であることが多いですが、時に強い痛みや知覚過敏を引き起こすことがあります。口を気にする仕草がある場合、明らかな病変がなくても病気や外傷が隠れていることがあるので注意が必要です。気になる仕草があれば一度病院を受診することお勧めします。