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長年続く外耳炎が改善した12才の柴犬さん

2019.03.25
アトピー性皮膚炎の治療前と治療後の耳と手の比較

来院理由:アトピー性皮膚炎の症状をもっと良くしたい

今回ご紹介するのはアトピー性皮膚炎で治療中だった12歳の柴犬さんです。シャンプー療法などの治療で「昔と比べると良くなったということでしたが、もっと良くしてあげられないでしょうか?」という事でした。実際に皮膚の状態を見てみると、足先のかゆみと脱毛、そして外耳炎症状が確認出来ました。現在の治療は抗菌シャンプーか市販のシャンプーで週に1回のシャンプー療法、そして、耳は点耳薬による治療をしているとのことでした。

柴犬の皮膚

12歳×柴犬

柴犬さんはアトピー性皮膚炎になりやすい犬種です。そして、アトピー性皮膚炎は完全に治る皮膚病ではないので、一生のお付き合いが必要が必要になります。 ここで皆さんに1つ質問です。「アトピー性皮膚炎は完全に治る皮膚病ではない=諦めないといけない」と思っていませんか?よく勘違いされる方がいらっしゃるのですが、この解釈は正しくありません。正しくは、「アトピー性皮膚炎は完全に治る皮膚病ではない=その子にとってのゴールを決めておきましょう」という事です。つまり、アトピー性皮膚炎の犬において、健康な状態をゴールにすると多くの薬や労力が必要になり何もしない状態をゴールにすると皮膚の状態がボロボロになってしまいます。その為、『愛犬と飼い主にとってのゴールをどこにするか』が重要となります。アトピー性皮膚炎は3歳以下での発症が一般的であり、長いお付き合いになるため、副作用との兼ね合いも考える必要があるでしょう。 さて、今回来院された柴犬さんの場合はどうでしょうか。今残っている症状は、これ以上良くしてあげられないのでしょうか?この子と飼い主さんにとってのゴールを考えていきたいと思います。

柴犬のお顔写真

どことなくショボンとしているお顔…良くしてあげたい…!!

犬のアトピー性皮膚炎について

まずは、犬のアトピー性皮膚炎について復習していきましょう。と言っても『ペットのひふ科』でも度々解説しているので、皆さんご存知かもしれませんね。

抑えておきたい内容として、アトピー性皮膚炎の犬の皮膚は敏感肌ということです。敏感肌とは、刺激を感じやすい肌ということです。従ってシャンプーの成分が刺激となる可能性が考えられます。

さらに、アトピー性皮膚炎の皮膚は乾燥しやすい肌質です。これは皮膚の表面の角層と呼ばれる部位に水分を閉じ込める働きをしているセラミドが不足していることが原因といわれています。これらの事から、アトピー性皮膚炎の犬には、低刺激のシャンプーと保湿剤を用いたスキンケアが勧められています。(※皮膚の表面に細菌や酵母菌などが増えていたり、アブラやフケが多くなっているケースもありますので、皮膚の状態に合わせたスキンケアを行う事も大切です。)

そして外耳炎もアトピー性皮膚炎の犬でよく併発するトラブルです。初期のアトピー性皮膚炎だと耳だけにかゆみが出る事が多いので、「毎年この季節に耳が悪くなる」という方は要注意です。外耳炎による炎症が慢性化すると、耳の内側の皮膚がゴワゴワに厚くなり、耳の穴が狭くなります。こうなると耳垢を取り除く事も難しく、薬も入りづらくなり治らないという結果になります。

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この子の場合

上でご紹介した考え方から、この柴犬さんではシャンプーを低刺激性のシャンプーに変更してもらい、保湿剤を追加しました。

耳は、厚くなり皮膚がゴワゴワした状態でした。このような場合、耳の皮膚を正常に戻すためステロイド剤が有効です。但し、犬用の点耳薬のほとんどがステロイドを含んでいる為、これまで使用していた点耳薬にもステロイド剤が含まれていました。ここで大切な事はステロイド剤の強度についても考慮する事です。ステロイド剤には強度があり、それぞれの効き目や役割が異なっています。

アレルギー疾患ガイドライン ステロイドの強さ比較

上の表は、人医療で用いられているアレルギー疾患治療ガイドラインとなります。重症度によって、薬が使い分けられているのが分かると思います。「強力なステロイドって大丈夫なの?」と思われるかもしれませんが、もちろん長期間使う事はしません。短期間の治療で改善させてその後は使用回数を減らし、可能であれば薬をやめて維持していくのが目的です。(ちなみに上のガイドラインを見ると、ステロイド剤の経口投与が『最重症の時のみ服薬する』事が推奨されている事が分かります。)

また、外用薬であれば内服薬よりも体の他の臓器へのステロイドの影響を最小限にする事ができます。これらの事から、耳は点耳薬のステロイド剤の強度を上げて治療をすることにしました。

運命の再診日

足と耳ともにかゆみが落ち着いてきて、発毛も認められるようになりました!診察前の写真と比べると、黒みが減った事が分かると思います。慢性的なかゆみが原因で掻いたり舐め続けていると、赤みを通り越して黒みがかってきます。(日焼けした後に、赤くなって、その後黒くなるのと同じですね。)

そのため私達獣医師は、黒くて厚い皮膚を見ると「長引いているんだな。」と理解します。長い時間を経て黒くなっている為、良くなるのにも時間がかかるのですが、この子は順調に改善してくれました。治療前と治療後の耳の穴の違いがお分かりになるかと思います。

皮膚が改善した写真

まとめ

今回の診察では、スキンケア製品と点耳薬の変更により、この柴犬さんと飼い主さんにとって最適なゴールを見つける事が出来ました。少しずつシャンプーの間隔を延ばしステロイド剤の強度を下げていく事が次のステップになります。

治療後のお顔 かゆみが落ち着いたからか、楽しそうな表情に!!よかった…!!

アトピー性皮膚炎だから治らないと諦めていませんか?治療を工夫することで改善が認められる事もあります。これから暖かくなってくると、痒がる子が増えてきます。様子を見ないで、早めに対応してあげる事で、治療期間が短くなり、薬やスキンケアなどの負担も少なくなります。お困りの方はかかりつけの獣医師や獣医皮膚科医へご相談してみて下さいね。

 

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