動物の耳科は、皮膚科に含まれるってご存知でしたか?ヒトには耳鼻科がありますが、動物では皮膚と耳に症状が出る病気が多いため、皮膚科医が耳科も担当する事になっています。
愛犬・愛猫が
・耳の辺りを掻いている(痒がっている)
・よく耳を振っている
・耳が汚れていてニオイがする
といった症状がある場合、それは外耳炎かもしれません。
外耳炎は様々な要因が複雑にからんで発生するため、外耳炎を引き起こしている原因を特定し、治療を行う事が重要です。
例えば、耳も検査でよく検出される【マラセチアや細菌】は、外耳炎を引き起こす要因ではなく、外耳炎を悪くする要因であるため、これらをやっつけても再発する事が多いです。
根本治療のためには、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどのアレルギー性疾患、脂漏症、異物などの異常に対して治療を行うことがポイントとなります。毎年外耳炎を繰り返す場合、根本治 療に至っていない可能性も考えられます。
耳の治療は、早いにこした事がありません。遅くなるにつれ、治療の効きが悪くなるだけでなく、外科手術が必要になってしまう場合もあるからです。当院は、耳科内視鏡を有しているため、中々治らない外耳炎(異物、腫瘍、コッカーの外耳炎)の 診断・治療や、中耳炎の診断・治療を行う事が可能となります。
外科的治療に移行する前の最後の砦として、高度な耳科診療を皆さまに提供致します。また、外科的治療が必要な場合、経験豊富な獣医耳科医を連携して、治療を行います。
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外耳炎について慢性外耳炎が改善したワンちゃん
Before
After
耳科内視鏡で観察した外耳炎の犬の耳道
耳の内視鏡処置(オトスコープ)による治療例
(オトスコープの処置中風景)
耳のトラブルで動物病院を受診する犬と猫の数はとても多く、中でもよく起こるトラブルは外耳炎です。その他、中耳炎、耳の中のポリープや腫瘍、耳の通り道が塞がる病気なども少なくありません。当院ではあらゆる耳のトラブルに対応できるように、一般的な耳科診療器具のほか、耳の内視鏡(オトスコープ)や外科器具を揃えております。特にオトスコープは、外耳や中耳内の徹底的な洗浄、ポリープや腫瘍の切除など幅広い処置が実施できます。当院の耳科専門診療は、耳の専門的な知識と技術、オトスコープや耳の外科処置の経験に長けた獣医師が担当しております。耳のトラブルの治療が長期化している、治ってもすぐに再発するなど、お困りの際はお気軽にお問合せください。
(耳道の図示)
VOS(Video Otoscopy) before & after case 1
症例情報
1歳の日本猫
来院理由:6ヶ月齢から右耳の痒みがあり、耳ダニの感染が確認されました。ダニを駆虫する治療が実施されましたが、その後半年間にわたり耳の痒みは改善されませんでした。そのため、セカンドオピニオンを目的として当院に来院されました。
当院初診時のオトスコープ所見
オトスコープで観察すると、右耳の鼓膜表面に巨大な耳垢の塊(赤矢印)が認められました。
オトスコープ処置後の所見
オトスコープからチューブと専用の鉗子を挿入し、耳垢の塊を完全に除去しました。除去後は正常な鼓膜が観察できました。
診断
診断名:右側耳道内の耳垢塞栓
現在の経過
オトスコープ処置後、耳の痒みは完全に消失しました。
術後3ヶ月間が経過した時点でも再発はなく、投薬の必要ない生活を送っています。
メッセージ
耳垢は鼓膜の付近で生まれ、耳の入り口まで徐々に移動し、外に排出されます。これを耳の自浄作用と呼び、耳の衛生状態が保たれます。今回は、耳ダニがきっかけで大量に耳垢が作られてしまい、鼓膜の周囲から耳垢がうまく移動することができなくなった可能性が推察されました。
耳ダニなどによる外耳炎では耳垢の洗浄処置が行われます。多くの場合は洗浄液を耳に入れて、マッサージする方法が取られますが、鼓膜付近に固まった耳垢を除去することは困難です。定期的に洗浄し、投薬をしているのに耳の痒みが良くならない場合は、耳の奥で耳垢が固まってしまっている可能性があります。固まった耳垢は鼓膜を傷つけてしまうことがあるため、オトスコープによって耳垢をキレイに取り除くことが推奨されます。
VOS(Video Otoscopy) before & after case 2
症例情報
6歳のヨークシャー・テリア
来院理由:耳の中に細菌感染が起こり、抗菌治療が行われていましたが、症状の改善を認めませんでした。そのため、セカンドオピニオンを目的に当院に来院されました。
当院初診時のオトスコープ所見
左耳の鼓膜手前にポリープ (腫瘤性病変、赤矢印)が確認され、その周囲に膿のような耳垢が付着していました。
オトスコープ処置中の所見
スネア鉗子(赤矢印)という特殊な器具を使用し、ポリープを摘出しました。
オトスコープ処置後の所見
ポリープを摘出して、その根元を確認すると、中耳の中にあることが判明しました。
鼓膜は上半分(赤矢印)だけしか残っておらず、下半分の鼓膜は失われていました。つまり、中耳で発生した腫瘤性病変が鼓膜を突き破り、外耳にまで突出していたことがわかります。
診断
診断名:左側中耳腔由来線維性ポリープ
現在の経過
腫瘤性病変は、病理検査の結果、線維性ポリープと診断されました。オトスコープでポリープを切除し、周囲の膿を入念に洗浄することで、細菌感染は完治しました。術後4ヶ月間が経過した時点で再発はなく、抗菌薬の投与も必要ない生活を送っています。
メッセージ
耳の細菌の感染は自然に発生することは極めて少なく、今回の症例のように細菌感染を誘発する別の原因が存在することが一般的です。細菌感染がある=抗菌療法を実施する、のではなく、感染を起こした根本的な原因への対応を優先することが完治への近道です。特に片耳だけ感染を繰り返す場合は、ポリープや異物が原因となる傾向があるので注意が必要ですが、オトスコープがあればキレイに取り除くことができます。。
VOS(Video Otoscopy) before & after case 3
症例情報
2歳のペルシャ
来院理由:3ヶ月前から右耳の痒みがあり、外耳に細菌感染が認められました。痒みや炎症を抑える治療や抗菌療法が実施されましたが症状の改善を認めなかったため、当院をご受診されました。
当院初診時のオトスコープ所見
右側の鼓膜手前に腫瘤性病変が確認されました。
オトスコープ処置中の所見①
スネア鉗子を使用し、腫瘤性病変を摘出しました。
オトスコープ処置中の所見②
ポリープを摘出した所、鼓膜の内側(中耳側)に白い膿(赤矢印)が観察されました。
オトスコープ処置中の所見③
カテーテル(赤ライン)を使用して、鼓膜内の白い膿(赤矢印)を洗浄・除去しました。
摘出した腫瘤性病変の写真
摘出した腫瘤性病変は病理検査の結果、炎症性ポリープと診断されました。
診断
診断名:炎症性ポリープを伴う中耳炎
現在の経過
炎症性ポリープを摘出した結果、耳の痒みや細菌感染の所見は消失しました。処置後4ヶ月経った現在においても再発はありません。
メッセージ
当院をご受診される猫の耳のトラブルでは、炎症性ポリープによる中耳炎に頻回に遭遇します。症例の多くは、耳が痒い、耳だれが治らないといった症状で、外耳炎に対する一般的な治療が実施されているものの、大きな改善を認めません。ポリープが増大し、中耳炎が悪化すると、発熱、痛み、聴覚の障害、顔面神経の麻痺、首の傾き(斜頸)など生活の質を低下させる症状へと発展します。猫の炎症性ポリープによる中耳炎は、点耳薬や抗菌療法で完治することは極めて困難なため、早期のオトスコープ処置が推奨されます。
VOS(Video Otoscopy) before & after case 4
症例情報
4歳のミニチュア・ピンシャー
来院理由:季節性に繰り返し外耳炎を患っていた症例です。毎年、夏に外耳炎が悪化していたという経過がありました。今年の夏も例年のように、耳を痒がる仕草が見られたことから来院されました。
当院初診時のオトスコープ所見
外耳道の壁全体にベッタリと黒色の耳垢が付着していました。
カテーテル洗浄処置後の所見
カテーテルを使用した洗浄を実施し、10分程度で耳垢をキレイに取り除くことができました(洗浄にオトスコープは用いていません)。
診断
診断名:アレルギー性外耳炎
現在の経過
徹底的な耳の洗浄により、外耳炎の症状は非常に良好な経過を辿っています。現在は外耳炎の大元の原因と考えられる季節性のアレルギーに対しても同時に治療を実施しております。
メッセージ
耳洗浄を行うには、耳垢が耳の中のどこに、どのように溜まっているかを観察し、それに適した洗浄方法を選ぶことが大切です。そのために、オトスコープによる観察は非常に有用です。オトスコープは内視鏡なので麻酔をかける、というイメージがあるかと思いますが、観察だけであれば麻酔をかけなくても十分に行えるケースも少なくありません(症例の性格や強い痛みなどがある場合は、麻酔なしでは実施できない場合もありますので、担当医にご相談ください)。
本症例のように季節性のある外耳炎を認める場合は、アレルギーが関与していることが一般的です。季節によるアレルギー性外耳炎の症状が明らかになってから受診した場合、今回の症例のように大量に耳垢が溜まり、症状が悪化することが少なくありません。耳の中をお家で確認することは困難ですので、悪くなる季節の少し前から、症状がなくても定期的に耳の状態を観察し、先手の治療を行うことがアレルギー性外耳炎の管理の上で重要となります。
VOS(Video Otoscopy) before & after case 5
症例情報
2歳のアメリカン・コッカー・スパニエル
来院理由:1年以上にわたって、両耳に慢性的に外耳炎が続いていました。さまざまな内科的治療が実施されましたが、耳の通り道がだんだんと狭くなっていきました。その後、耳の通り道は閉塞し、強い痛みや聴覚の喪失が認められたため、当院をご受診されました。
当院初診時の写真
重度の外耳炎が長期間続いたため、耳の穴が完全に塞がっており(赤矢印)、耳道内を観察することも困難でした。また、触診において耳の通り道は石のように固くなっていました。耳の通り道と耳の奥の状態を確認するため、頭部のレントゲン検査を行った結果、耳道の周囲に石灰成分の沈着が認められました。耳の通り道が完全に閉塞し、石灰の沈着によってガチガチに固くなってしまった場合は、オトスコープによる処置で完治させることは困難なため、外科的に耳の通り道を切除する治療(全耳道切除術)を選択しました。
手術後の写真①
固く塞がった耳道を切除し、2週間後の写真です。
手術後の写真②
抜糸後の写真です。耳の強い痛みは完全に消失しました。
診断
診断名:慢性外耳炎による耳道完全狭窄及び石灰沈着。
現在の経過
術後の経過は良好で、大きな支障もなく日常生活が送れるようになりました。もちろん投薬の必要もない状態です。聴力も少しずつ回復しています。
メッセージ
アメリカン・コッカー・スパニエルは耳のトラブルを起こしやすく、今回の症例のように外耳の閉塞や石灰化など、重症化するケースが少なくありません。また、耳の中のポリープや腫瘍の発生が高い犬種でもあります。アメリカン・コッカー・スパニエルで1ヶ月以上治療を行なっても耳の症状が管理できない場合や、再発を繰り返す場合は、できる限り早期に耳科専門診療を受診することをお勧めします。受診が遅くなればなるほど、今回の症例のように重症化し、耳道を切除する手術が必要となる可能性が高まります。耳道切除術は、合併症のリスクの多い手術でもあり、当院でも最後の最後に選ぶ治療法です。外耳炎の発症初期であれば、内科療法や、簡単なオトスコープの処置で管理できる可能性は十分にあります。「まだ大丈夫かな・・・」と思わずに、症状の軽いうちにお早めにご相談ください。