どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科主任皮膚科医伊從慶太インタビュー

皮膚科は来院理由第１位

動物病院に、「皮膚が痒そう」、「耳が汚れている」、などの理由で来院される犬や猫はとても多いです。犬が動物病院にかかる理由の第一位は皮膚トラブルで、全体の25％もの割合を占めます。第二位が耳のトラブルで15％なので、皮膚や耳で悩まれて動物病院を利用する方は実に40％にも及びます。(国内ペット保険会社参照)
ヒトでは、皮膚トラブルは皮膚科、耳のトラブルは耳鼻科のイメージがありますが、犬や猫では皮膚のトラブルと耳のトラブルが密接に関係していることが少なくありません。そのため、皮膚科の専門医は必ず耳の病気にも精通していなければなりません。

また、近年の皮膚と耳のトラブルの主な原因としては、アレルギー性疾患が挙げられます。アレルギーは寄生虫や昆虫、ホコリや花粉などの環境アレルゲン、食事、接触物、薬など様々な原因で発生し、多角的な診断・治療アプローチが必要となります。
当院は皮膚科・耳科・アレルギー科に精通した獣医師が複数所属し、グループ医療で皮膚疾患・耳疾患の症例の診察を行なっています。

“治す”だけが獣医療ではない

皮膚や耳の症状を緩和するためには、薬物療法が汎用されます。近年、革新的な研究や治療薬の開発によって、犬や猫の皮膚・耳疾患の管理は飛躍的に向上しました。

一方で、多くの薬物療法は症状を抑える“対症療法”です。皮膚や耳のトラブルは、完治が期待できず、生涯にわたる対症療法が必要となる場合も少なくありません。しかし、長期間の薬物療法は、副作用、症例やそのご家族への負担など、様々な懸念点があります。

したがって、対症療法で症状を緩和するだけでなく、『良い状態を維持すること』、『再発を防ぐこと』が慢性的な皮膚・耳疾患では重要となります。究極の獣医療は病気を治すことではなく、病気を予防することであると私たちは考えます。

そのため、病気になった後も、なる前にも“予防する”ことが極めて重要なアプローチとなります。皮膚・耳疾患の予防は、薬物療法のみで達成することは困難で、生活環境やライフスタイルの改善、食事や栄養管理、スキン/イヤーケア、ストレスケアなど様々な側面からアプローチします。つまり健康の基本である衣食住心の観点に戻って考えることが重要となります。私たちは、このアプローチを実現するために症例のご家族との対話に最も時間を割き、初診では１時間の枠を設けています。

皮膚や耳のトラブルは、症状が目で見て分かる前から発生・進行している場合があります。私たちの病院では微細な皮膚の変化を捉えるために、皮膚のバリア機能評価のほか、皮膚の水分量、皮膚pH、皮脂量、皮膚コラーゲンの分布、高性能皮膚・耳カメラなどの検査機材を揃えており、多面的に皮膚や耳の健康状態を評価することが可能です。

正しい情報・新しい知見の発信

私は獣医師に皮膚科教育を行う立場である為、論文投稿、学会講演、セミナー教育を日々行っております。
現代は情報社会で、インターネットや様々なメディア媒体を経由して多くの情報を得ることができます。残念ながら獣医学領域では誤った情報が拡散されていることも多く目にします。
１人でも多くの飼い主と皆さんと動物たちを皮膚病の苦しみから救いたいという想いから、私たちは飼い主様向けのwebページとSNSを設け、正しい情報を発信するように努めています。

犬や猫の皮膚・耳・アレルギーに関する情報は、欧米の研究が主体となっています。一方で、欧米と日本では環境、気候、人気の品種なども異なり、一概に欧米の情報を日本に当てはめられないこともあります。我々のグループでは日本に則した学術・研究活動を行い、学会発表や講演、論文や雑誌の記事などを通して発信しております。自社で研究施設を持つのみならず、フード、スキンケア製品、製薬企業様、大学や研究機関とも協力しながら活動を行なっています。