


私が歯科を志したきっかけは、総合診療に携わっていた頃の経験です。
当時の診療では、歯肉口内炎や歯周病によって食欲が落ち、痛みに耐えながら過ごしているわんちゃんやねこちゃんを数多く診てきました。手術をしても症状を改善させてあげることができず、その後、別の病気で亡くなってしまった子もいます。
そのとき強く残ったのが、「痛みをなくし、ごはんを食べられるようにしてあげたかった」という思いでした。
当時は、獣医療における歯科教育がまだ十分とはいえず、多くの病院で見よう見まねの診療が行われていた面もあったと思います。そんな中でサーカス動物病院に入職し、専門的な歯科診療を学ぶ機会を得たことで、歯科診療の奥深さと重要性に惹かれ、専門的に取り組みたいと思うようになりました。
歯科診療では、歯を残せるのか、抜歯が必要なのか、麻酔をどう考えるか、ご自宅でのケアを続けられるかなど、さまざまな要因を見ながら治療を考えていく必要があります。
だから私は、わんちゃん・ねこちゃんの状態だけでなく、ご家族の希望や暮らし方も含めて、その子にとって何が最善かを一緒に考え、治療をご提案することを大切にしています。
また、麻酔に不安を感じるご家族は少なくありません。そのような場合に心がけているのは、「麻酔を正しく理解してもらう」ということです。
医療は日々進歩しており、麻酔の安全性も向上しています。それに伴い、麻酔に関連する死亡事故は減少傾向にあります。麻酔そのもののリスクだけでなく、治療を行わないことで生じるリスクも含め、エビデンスに基づいて一頭一頭評価し、できる限り丁寧にご説明するようにしています。正しい情報を共有することが、不安を和らげる第一歩になると考えています。
歯科診療部長として私が目指しているのは、患者さんとご家族の想いに寄り添いながら、その子に本当に必要な医療をチームで提供することです。
歯科診療は、一人の獣医師だけで成り立つものではありません。適切な診断や治療の提案はもちろん、処置後のケア、日々のデンタルケアの継続、ご家族へのわかりやすい説明まで含めて、チーム全体で支えていくことが大切だと考えています。
現在は、専門診療科として臨床・教育・研究の三つを軸に、歯科診療の質を高める取り組みを進めています。歯科の専門性を持った獣医師・動物看護師の育成、ご家族への正しい知識の発信、大学と連携した研究や外部への症例共有を通じて、グループ全体の歯科診療レベルを継続的に高めていきたいと考えています。
また、日本国内の獣医学だけでなく、ヨーロッパの獣医歯科や人の歯科医療からも積極的に学び、得られた知見をチーム全体で共有しています。設備面においても、治療成績やエビデンスに基づき、診療の精度を上げることができる医療機器の導入を進めています。
さらに重視しているのが、動物看護師の育成です。歯科は、日々のケアが治療後の経過を大きく左右する診療科です。ご家族へのデンタルケアのご案内や、日々のお悩みに丁寧に向き合える体制を整えることで、診療後まで見据えた歯科医療を実現していきたいと考えています。
獣医療は日々進歩しており、歯周病は以前に比べて治療の選択肢が広がってきた疾患のひとつです。かつては「歯周病なら抜歯」「歯が折れたら抜歯」と考えられることも多くありましたが、現在では状態によって温存を目指せるケースも増えてきています。
もちろん、すべての歯を温存できるわけではありません。日頃のデンタルケアや、定期的なメインテナンスなど、いくつかの条件がそろって初めて目指せる治療もあります。だからこそ私は、診療の場だけでなく、メディアでの発信を通じて、病院の外でも正しい歯科の知識を届けることにも積極的に取り組んでいます。
歯科に関する情報があふれる今だからこそ、知識・技術・経験を磨き続けながら、ご来院いただくすべてのご家族と、わんちゃん・ねこちゃんにとって最善の提案ができるよう努めてまいります。
「少し気になる」という段階でも、どうぞお気軽にご相談ください。わんちゃん・ねこちゃん、そしてご家族にとって何が最善かを、一緒に考えていければと思います。