
愛犬をなでたときに、被毛がしっとり湿っていると感じたことはありませんか。
「うちの子の被毛が束になっている」
このような変化に気づき、不安や疑問に感じている飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
犬アトピー性皮膚炎の治療中にこうした被毛の症状がみられる場合、多汗症(たかんしょう)が関係していることもあります。
今回は、シクロスポリンによる治療で多汗症の改善がみられたポメラニアンの症例をご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬の皮膚の状態を見直すためにお役立てください。
| 📍 目次 ▼ 症例紹介 ▼ 実際の症例 ▼ 犬アトピー性皮膚炎とは ▼ 犬アトピー性皮膚炎の症状 ▼ 犬の多汗症とは ▼ 犬アトピー性皮膚炎と多汗症の治療法 ▼ まとめ ▼ 獣医師からのメッセージ:一人で悩まずにご相談ください |
症例紹介
| 動物種 | 犬 |
| 品種 | ポメラニアン |
| 主な皮膚症状 | かゆみ、赤み、脱毛、被毛が束になる |
| 来院理由 | 犬アトピー性皮膚炎の治療を続けてもかゆみや赤みが残るため来院 |
| 診断 | 犬アトピー性皮膚炎、多汗症、常在菌の増殖 |
| 治療方針 | 内服薬をステロイドからシクロスポリンに変更 |
| 治療期間 | 3か月以上 |
| 治療結果 | 被毛の束と多汗がなくなり、ふわふわの被毛に戻って、かゆみが落ち着いた |
実際の症例
今回ご紹介する症例は、犬アトピー性皮膚炎の治療を続けているのに、かゆみや赤みが残っていたという1歳のポメラニアンです。
来院理由
この症例は、犬アトピー性皮膚炎の治療を続けても症状が残っているため、来院されました。
それまでは他院で犬アトピー性皮膚炎に対して、ステロイドの内服薬と、抗菌シャンプーによるスキンケアで治療を受けていました。

初診時の状態
初診時、この症例には以下の症状が見られました。
- かゆみ
- 皮膚の赤み
- 脱毛
- 束になって濡れたように見える被毛
- ふわふわした質感が失われた被毛
犬アトピー性皮膚炎の治療を続けていても、これらの症状が残っている状態でした。
犬の被毛が束になって濡れたように見える変化は、汗の分泌が増える多汗症でみられることがあります。
これは、水分が多くさらさらした汗が過剰に分泌されることで起こります。
検査・診断結果
皮膚の表面の状態を調べるために、皮膚押捺検査(ひふおうなつけんさ)を行いました。
この検査は、スライドガラスを皮膚に押し当てて、付着した菌や細胞を顕微鏡で確認する検査です。
検査の結果、皮膚の表面で常在菌が増えていることが確認されました。
常在菌は健康な皮膚にも存在する菌ですが、増えすぎるとかゆみや炎症の原因になります。
これらの結果から、犬アトピー性皮膚炎に多汗症が併発し、常在菌が増えている状態と判断されました。
治療方針
それまで使っていた内服薬を、ステロイドからシクロスポリンに変更しました。
変更したのは、シクロスポリンで管理された多汗症の症例が報告されているからです。
シクロスポリンには、アトピーの炎症やかゆみを抑えるはたらきに加えて、皮膚炎に伴う皮膚構造の変化(汗の過剰な分泌など)を抑えるはたらきも期待されます。
治療後の経過
治療開始から2か月後の再診では、束になっていた被毛がなくなり、ふわふわした質感が戻っていました。
多汗もなくなり、かゆみも落ち着いて、脱毛していた部分には被毛が生えはじめていました。

その後は、シクロスポリンの内服を毎日から2日に1回に減らし、シャンプーを薬用のものから低刺激性のものに替えて、スキンケアを続けることにしました。

今回のように、犬アトピー性皮膚炎に多汗症を併発している場合も、薬を見直すことで皮膚の状態が大きく変わることがあります。
ここからは、犬アトピー性皮膚炎と多汗症、そして治療法について解説します。
犬アトピー性皮膚炎とは
犬アトピー性皮膚炎とは、犬の皮膚に慢性的なかゆみや炎症が起こる病気です。
この病気は、アレルギーを起こしやすい体質に加えて、皮膚バリア機能が低下していることが関係すると考えられています。
皮膚バリア機能が低下した皮膚には、環境中のアレルゲンが入り込みやすく、炎症やかゆみが起こります。
犬アトピー性皮膚炎は完治が難しく、症状を抑えながら長く付き合っていく病気です。
犬アトピー性皮膚炎の症状
犬アトピー性皮膚炎では、おもに以下のような症状が見られます。
- かゆみ
- 皮膚の赤み
- 脱毛
- 皮膚のべたつき
これらの症状が見られたときは、動物病院に相談しましょう。
また、犬アトピー性皮膚炎では、皮膚に存在する常在菌が増えて、かゆみが悪化することがあります。
今回の症例でも、常在菌の増殖が確認されました。
犬の多汗症とは
犬の多汗症は、汗の分泌が増える状態です。
犬は人のように全身で汗をかいて体温を下げるよりも、体温調節はおもにパンティング(口を開けてはあはあと息をすること)で行います。
ただし、犬の皮膚にも汗腺はあり、被毛の毛穴に付随して全身にあるアポクリン腺と、肉球などにあるエクリン腺の2種類があります。
このうちアポクリン腺からの分泌が増えた状態が、犬の多汗症です。
汗が増えると、被毛が濡れたように束になることがあります。
また、皮膚の表面が湿った状態は、常在菌が増えやすい環境です。
その結果、かゆみの悪化につながることもあります。
犬の多汗症については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
犬アトピー性皮膚炎と多汗症の治療法
犬アトピー性皮膚炎の治療は、かゆみや炎症を抑える内服薬を中心に、シャンプーなどのスキンケアを組み合わせて行います。
多汗症に対する治療はまだ研究が少ないものの、今回の症例では犬アトピー性皮膚炎の内服薬を見直したところ、多汗も改善しました。
ここでは、今回の症例で行った内服薬とスキンケアについて解説します。
シクロスポリン
シクロスポリンは、免疫のはたらきを調整して、炎症やかゆみを抑える内服薬です。
今回の症例では、皮膚炎に伴う汗の過剰な分泌を抑える効果も期待して使用しました。
ただし、シクロスポリンは効果が現れるまでには2〜4週間ほど、長いと6週間ほどかかるとされており、すぐに効く薬ではありません。
このため、この薬の効果は時間をかけて見きわめることが大切です。
症状が落ち着いたあとは、投与の間隔を毎日から2日に1回へ延ばすなど、薬を減らしていくことがあります。
シクロスポリンを減らすかどうかは、症状の改善の程度を見て獣医師が判断します。
この薬の副作用として、投与開始初期に嘔吐などの消化器症状がみられることがあり、食後に投与するなどの工夫をする場合もあります。
スキンケア
スキンケアは、シャンプーや保湿で皮膚を清潔に保ち、皮膚バリア機能を補う治療です。
皮膚の状態に合わせて、薬用シャンプーや低刺激性のシャンプーを使い分けます。
今回の症例では、皮膚の状態が落ち着いたあとに、シャンプーを薬用のものから低刺激性のものに変更しました。
内服薬を減らしていく時期にも、スキンケアを続けることで皮膚を良い状態に保ちやすくなります。
まとめ
犬アトピー性皮膚炎の治療を続けてもかゆみが残ったり、被毛がしっとり湿って束になったりするときは、多汗症や常在菌の増殖が関係していることもあります。
今回のポメラニアンは、内服薬をシクロスポリンに変更したところ、2か月後には被毛の束や多汗がなくなり、かゆみも落ち着きました。
愛犬の被毛やかゆみの様子が気になるときは、遠慮なく動物病院に相談しましょう。
サーカス動物病院グループでは皮膚科診療にも力を入れており、犬アトピー性皮膚炎や多汗症の治療についても経験豊富な獣医師が対応しております。
愛犬の皮膚の状態が気になる飼い主様は、ぜひ当動物病院グループまでお気軽にご相談ください。
獣医師からのメッセージ:一人で悩まずにご相談ください
動物の皮膚科領域では、主要疾患の国際的な治療ガイドラインの作成が進み、治療の選択肢も年々広がっています。以前はコントロールが難しかった症例でも、最新の知見に基づいた適切な薬やスキンケア、食事や生活指導などの組み合わせによって、皮膚や被毛の状態を大幅に改善させ、愛犬とご家族が穏やかに過ごせる状態を取り戻すことができる可能性が十分にあります。
多くの動物病院は「総合科」としてあらゆる診療科を網羅しており、何でも相談できるという素晴らしいメリットがあります。一方で、獣医療の高度化に伴い、すべての科において最新の専門性を維持し続けることが難しいという側面も持ち合わせています。
サーカス動物病院グループには、アジア獣医皮膚科専門医が2名在籍し、専門性の高い皮膚科診療を行っています。「長年治療しているのに改善しない」「何が原因かはっきりさせたい」「スキンケアの方法を見直したい」とお悩みの飼い主様は、決して一人で抱え込まず、ぜひ当動物病院グループにご相談ください。
愛犬の皮膚の状態に合わせた最適なサポートを、一緒に考えていきましょう。
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