
愛犬の皮膚にかさぶたができているのを見つけた経験はありませんか?
かさぶたができる原因は細菌感染やアレルギーなどさまざまですが、そのひとつに天疱瘡(てんぽうそう)という病気があります。
天疱瘡は見た目だけでは判断が難しく、早めの診断と治療がとても大切です。
この記事では、犬の天疱瘡についてわかりやすくお伝えします。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の天疱瘡に対する理解を深めていただけますと幸いです。
| 📍 目次 ▼ 犬の天疱瘡とは? ▼ 犬の天疱瘡で見られる代表的な症状と好発部位 ▼ 犬の天疱瘡の原因とかかりやすい犬種 ▼ 犬の天疱瘡の診断の流れ ▼ 天疱瘡と間違われやすい皮膚病 ▼ 犬の天疱瘡の治療法 ▼ まとめ |
犬の天疱瘡とは?
天疱瘡は、体を守るはずの免疫が誤って自分自身の皮膚を攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつです。
健康な犬の皮膚では、表皮の細胞同士が「デスモソーム」という接着構造によってしっかりとつなぎ合わされています。
天疱瘡になると、免疫が暴走し、このデスモソームの構成成分を攻撃してしまいます。
その結果、細胞同士のつながりが壊れ、皮膚の表面に水ぶくれや、かさぶたができてしまうことが多いです。
天疱瘡にはいくつかのタイプがありますが、犬で実際に報告されているのはおもに以下の2つです。
- 落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう):犬でもっとも多いタイプで、表皮の浅層が侵され、鼻や耳、肉球などにかさぶたや膿が出やすいです。
- 尋常性天疱瘡(じんじょうせいてんぽうそう):表皮の深い層まで影響が及ぶタイプで、口の中の粘膜がだだれることがあります。
犬の天疱瘡の大半は落葉状天疱瘡が占めており、尋常性天疱瘡の報告はまれですが、発症した場合は重症化しやすい傾向があります。
犬の天疱瘡で見られる代表的な症状と好発部位

天疱瘡は、飼い主様が早い段階で皮膚の異変に気づけるかどうかが、治療経過を大きく左右します。
発見が遅れると皮膚のダメージが広がり、細菌の二次感染や全身症状につながるリスクが高まるためです。
犬でもっとも多い落葉状天疱瘡では、まず小さな膿疱(膿を持ったブツブツ)ができ、それが破れて皮膚がただれてきます。
ただれた部分が乾燥すると厚いかさぶたへと変化していくことが多いです。
ただし、犬の皮膚は毛で覆われているため、飼い主様が初期の症状を見つけるのは簡単ではありません。
黄色っぽいかさぶたや皮膚がただれている状態になってから気づくケースが多いです。
落葉状天疱瘡の症状が特に出やすい部位は、以下のとおりです。
- 鼻すじや鼻の表面
- まぶたの周囲
- 耳のひらひらした部分(耳介)
- 肉球
- 爪の付け根
- 頭部
- 背中
症状の広がり方にも特徴があり、左右対称性に始まり、顔面から全身へと広がることが多いです。
肉球に症状が出た犬は、肉球が硬く厚くなってひび割れ、歩き方がぎこちなくなることも珍しくありません。
尋常性天疱瘡は報告数こそ少ないものの、落葉状天疱瘡より皮膚の深層が侵されるため、症状は重くなりやすい傾向があります。
大きな特徴は、口の中の粘膜に症状が出やすい点です。
口腔内の粘膜がだだれると、愛犬がごはんを食べにくそうにしたり、よだれの量が急に増えたりする様子がみられます。
また、皮膚と粘膜の境目にあたる
- 唇のまわり
- まぶた
- 鼻
- 肛門周囲
- 陰部
などにも症状が出やすいのが特徴です。
尋常性天疱瘡は落葉状天疱瘡に比べて痛みが強い場合が多いとされています。
天疱瘡は発熱や元気・食欲の低下といった全身症状が出る場合もあるので注意しましょう。
犬の天疱瘡の原因とかかりやすい犬種
犬の天疱瘡は免疫の異常がきっかけで発症しますが、多くの場合は明らかな原因が特定できない「特発性」です。
ただし、以下のような要因が発症や症状の悪化に関係するケースも報告されています。
- 薬剤の投与
- ワクチン接種
- 慢性的な皮膚炎
- 紫外線への曝露
- 遺伝的素因
天疱瘡の予防は困難ですが、紫外線による悪化が報告されているため、夏場の散歩での強い紫外線は避けることをおすすめします。
また、天疱瘡の好発犬種は以下のとおりです。
- 秋田犬、柴犬などの日本犬
- チャウチャウ
- コッカー・スパニエル
- ジャーマン・シェパード
- ミニチュアダックスフンド
ただし、上記の犬種に該当しなくても発症する可能性は十分にあります。
天疱瘡を発症しやすい年齢は4〜5歳の中年齢ですが、生後数ヶ月から10歳以降の高齢犬まで幅広い年齢で発症するため注意しましょう。
とくに、薬物に関連する天疱瘡は若い年齢で起きやすいとされます。
愛犬の皮膚に気になる変化があれば、犬種や年齢にかかわらず、早めに獣医師へ相談してください。
犬の天疱瘡の診断の流れ

天疱瘡は、見た目だけで確定診断を下すことが難しい病気です。
天疱瘡と似た症状を示す皮膚病は複数あり、それぞれ治療方針がまったく異なるため、正確に見分けたうえで治療を始める必要があります。
ここでは天疱瘡の診断の流れをみていきましょう。
① 特徴的な皮疹と分布の確認
まずは、皮膚の病変がどのような見た目で、体のどの部位に分布しているかを確認することが大切です。
鼻すじや肉球などに左右対称のかさぶたや膿疱が出ているかどうかは、天疱瘡を疑う重要な手がかりです。
② 細胞診検査
次に、皮膚の表面の細胞を採取し、顕微鏡で細胞を観察する細胞診が行われます。
ここで注目するのが棘融解細胞(きょくゆうかいさいぼう)という、細胞同士のつながりが外れて丸くなった細胞の存在です。
棘融解細胞がみられると天疱瘡の可能性が高まりますが、この所見だけでは確定には至りません。
③ 皮膚病理組織検査
最終的な確定診断の決め手となるのが、皮膚病理組織検査です。
皮膚病理組織検査では、病変部の皮膚を小さく切り取り、顕微鏡で組織の状態を詳しく調べます。
天疱瘡の場合、表皮内でデスモソームによる細胞同士の接着が失われ、細胞がバラバラに離れている様子が観察されるのが特徴的な所見です。
天疱瘡と間違われやすい皮膚病
天疱瘡の症状は、ほかの皮膚病とよく似ていることが多く、見た目だけで区別するのは簡単ではありません。
ここでは、天疱瘡と間違われやすい皮膚病を取り上げ、それぞれの特徴と天疱瘡との違いを整理します。
膿皮症(のうひしょう)
膿皮症は、ブドウ球菌などの細菌が皮膚に感染して起こる病気です。
膿疱やかさぶたといった症状が天疱瘡とよく似ています。
膿皮症では細胞診で細菌が多数確認されるのに対し、天疱瘡では棘融解細胞がみられることが診断の手がかりになります。
膿皮症は抗菌薬などの適切な治療で、改善が見られることが多いです。
皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)
皮膚糸状菌症は、カビ(真菌)の一種が皮膚に感染して起こる病気です。
脱毛やかさぶたが特徴で、天疱瘡の初期症状と似て見える場合があります。
皮膚糸状菌症は真菌培養検査やウッド灯検査といった検査で確認することができます。
天疱瘡と違い、皮膚糸状菌症は人や他の動物にうつる感染症です。
正確な診断がつくまでは、病変部を触ったあとの手洗いなど衛生面にも気をつけましょう。
ニキビダニ症
ニキビダニ症は、犬の毛穴に常在するニキビダニが異常に増殖して起こる皮膚炎です。
脱毛、かさぶたなど天疱瘡と共通する症状が多いです。
また、ニキビダニ症も天疱瘡と同様に顔に症状が出やすい傾向にあります。
ニキビダニ症は皮膚掻爬検査(ひふそうはけんさ)や抜毛検査(ばつもうけんさ)などでニキビダニを直接確認することで診断が行われます。
エリテマトーデス
エリテマトーデスも天疱瘡と同様で、自己免疫疾患のひとつです。
鼻や耳にかさぶたが生じることがあり、天疱瘡と非常に似た外見を示すケースも珍しくありません。
外見だけでの判断は難しい場合が多いため、天疱瘡とエリテマトーデスの確定診断には皮膚病理組織検査が必要です。
犬の天疱瘡の治療法
天疱瘡の治療では、免疫の反応を薬で抑え、皮膚への攻撃を止めることが基本方針です。
治療を適切に続け、症状をうまくコントロールすることで生活の質が維持できます。
ここでは天疱瘡の代表的な治療法をみていきましょう。
ステロイド
天疱瘡の治療で汎用されるのが、ステロイド薬です。
ステロイドには免疫の過剰な反応を抑える強い力があり、皮膚への攻撃をすばやく止める効果が期待できます。
治療の流れとしては、最初にしっかりと効く量のステロイドを使って症状を抑え込み、皮膚の状態が落ち着いてきたら少しずつ薬の量を減らしていくのが一般的です。
急に減らすと症状がぶり返す原因になるため、獣医師の指示に従って焦らずゆっくり進めることが大切になります。
ただし、ステロイドは長期間使い続けると副作用が出ることがあります。
飼い主様が気づきやすい代表的な変化は以下のとおりです。
- 水をたくさん飲み、おしっこの量が増える
- 食欲が増して体重が増加する
- 筋肉が痩せてくる
- 息が荒くなる(パンティング)
このほか、血液検査で肝臓の数値が上がることもあります。
ステロイドを使用する際は、定期的な血液検査や尿検査で副作用のチェックをしながら治療を進めることが大切です。
免疫抑制剤
ステロイドだけでは症状が十分にコントロールできない場合や、ステロイドの副作用を減らしたい場合には、免疫抑制剤をあわせて使うことも選択肢のひとつです。
代表的な薬には、以下のようなものがあります。
- アザチオプリン
- シクロスポリン
- ミコフェノール酸モフェチル
- クロラムブシル
どの薬をどのように組み合わせるかは、愛犬の症状や全身状態などをみながら獣医師によって判断されます。
オクラシチニブ
近年、新しい選択肢として注目されているのがオクラシチニブという薬です。
もともとは犬アトピー性皮膚炎の治療に使われている薬ですが、天疱瘡に対しても効果が期待できる可能性が示されています。
ただし、現時点ではまだ天疱瘡の標準治療として確立された薬ではなく、すべての犬に効果があるわけでもありません。
ステロイドの副作用が強く出てしまう犬や、従来の免疫抑制薬が体質に合わない犬などで検討される可能性があります。
使用にあたっては獣医師による慎重な判断とモニタリングが必要です。
まとめ
犬の天疱瘡は、免疫の異常によって皮膚に膿疱やかさぶたが繰り返しできる自己免疫疾患です。
鼻や耳、肉球などに原因のわからない皮膚症状が続く場合は天疱瘡の可能性があるため注意しましょう。
犬の天疱瘡は一度発症すると治療は長期にわたるため、根気強く動物病院に通院することが必要になります。
途中で治療をやめてしまうと、再発してしまうことが多いので、獣医師とよく話し合って治療を進めていきましょう。
サーカス動物病院グループは皮膚科診療に力を入れています。
犬の皮膚に気になる症状があれば、ぜひ当動物病院グループにご相談ください。
よくある質問
Q.犬の天疱瘡は完治しますか?
A.天疱瘡は、治療によって症状を落ち着かせ、良好な状態を長く維持できる犬が多くいます。
ただし再発しやすい病気であり、長期間にわたって薬の量を調整し続ける必要が出てくるケースも少なくありません。
皮膚の状態がよくなったように見えても、飼い主様の判断で薬をやめると再発につながる可能性があるため、必ず獣医師の指示に従いましょう。
Q.犬の天疱瘡は他の犬や人にうつりますか?
A.天疱瘡は免疫の異常によって起こる病気であり、犬同士や人にうつる感染症ではありません。
ただし、見た目がよく似ている皮膚糸状菌症は人や他の動物にうつる可能性があります。
正確な診断がつくまでは、病変部を触ったあとの手洗いを心がけましょう。
Q.愛犬がかゆがっていなければ様子を見ても大丈夫ですか?
A.かゆみが少ない場合でも、天疱瘡やその他の皮膚の病気が静かに進行していることがあります。かさぶた、膿疱といった症状が続いているときは、かゆみの有無だけで大丈夫かどうかを判断するのは危険です。
早めに動物病院で検査を受けることで、天疱瘡と感染症の見分けがつきやすくなり、治療の選択肢も広がります。
Q.天疱瘡を予防する方法はありますか?
A.残念ながら、天疱瘡を確実に防ぐ方法は確立されていません。
ただし、紫外線が症状を悪化させる可能性のある犬では、日差しが強い時間帯の散歩を避けることが役立つ場合があります。
Q.治療中に注意すべき緊急のサインはありますか?
A.治療中の愛犬に以下のような変化がみられた場合は、できるだけ早く動物病院へ連絡してください。
- 皮膚の病変が急に全身へ広がった
- 発熱やぐったりした様子がみられ、食欲が著しく落ちた
- 肉球の痛みがひどく、歩くことができなくなった
- 口の中にただれや潰瘍ができた
- 嘔吐や下痢が続くなど、薬の副作用が疑われる症状が出た
皮膚の病気は一見すると命に直結しないように思われがちですが、全身状態の悪化が重なると愛犬への負担は非常に大きくなります。
少しでも異変を感じた段階で相談しておくことが、早期対応につながります。いため予防は困難です。
紫外線が悪化要因と考えられているため、夏場の強い日差しを避けるなどの工夫でリスクを軽減できる可能性があります。
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