
愛犬の体をなでていて
「小さなしこりがある?」
と気づいた経験はありませんか。
犬の皮膚にできるしこりは良性のものもありますが、中には肥満細胞腫という悪性腫瘍(がん)が隠れている場合があります。
肥満細胞腫は犬の皮膚にできるがんの中でも発生頻度が高く、見た目だけでは良性のしこりと見分けがつきません。
悪性度が高いタイプでは転移や再発のリスクもあるため、早期発見・早期治療がとても大切な病気です。
この記事では、犬の皮膚肥満細胞腫について獣医師がわかりやすく解説いたします。
ぜひ最後までお読みいただき、肥満細胞腫の早期発見にお役立てください。
| 📍 目次 ▼ 犬の皮膚肥満細胞腫とは?肥満細胞が腫瘍化する病気 ▼ 犬の皮膚肥満細胞腫の症状 ▼ 犬の皮膚肥満細胞腫の検査 ▼ 犬の皮膚肥満細胞腫の治療法 ▼ 皮膚肥満細胞腫から愛犬を守るために家庭でできること ▼ まとめ |
犬の皮膚肥満細胞腫とは?肥満細胞が腫瘍化する病気
皮膚肥満細胞腫とは、体の中にある肥満細胞という細胞ががん化してできる悪性腫瘍です。
名前に「肥満」とついていますが、体重増加や食事などの栄養状態とはまったく関係がなく、太っていない犬でも発症します。
「肥満細胞」という名前は、顕微鏡で細胞を観察した際に、細胞の中にヒスタミンやヘパリンなどの物質(顆粒)を蓄えてふっくらした見た目をしていることに由来しています。
肥満細胞腫は犬の皮膚悪性腫瘍のうち約10〜20%を占めるとされ、珍しい病気ではありません。
肥満細胞ががん化すると皮膚にしこりを作るだけでなく、腫瘍からヒスタミンやヘパリンが放出されて全身に悪影響を及ぼすことがあります。
特に注意が必要なのは、肥満細胞腫が脂肪腫(良性の脂肪のかたまり)や虫刺されの跡と見た目がよく似ている点です。
肥満細胞腫は柔らかいものも赤く腫れるものもあり、見た目や感触だけで良性・悪性を区別することはできません。
「小さいから大丈夫」
と自己判断せず、しこりに気づいた時点で動物病院に相談することが愛犬を守る第一歩になります。
皮膚肥満細胞腫になりやすい犬種と年齢
肥満細胞腫はどの犬種にも発生しますが、遺伝的な要因で特にできやすい犬種が知られています。
代表的な好発犬種は以下のとおりです。
- ボクサー
- パグ
- フレンチ・ブルドッグ
- ゴールデン・レトリバー
- ラブラドール・レトリバー
- シャー・ペイ
発症しやすい年齢は8〜9歳前後の中高齢期ですが、若い犬にも発生するため年齢だけで安心はできません。
できやすい場所は体幹(胴体)がもっとも多く、四肢や頭部にもよくみられます。
肥満細胞腫は犬種によって腫瘍の性質にも違いがみられ、パグやボクサーでは比較的悪性度の低いものが多いです。
ただし犬種だけで悪性度は決まらないため、どの犬種でも注意が必要です。
犬の皮膚肥満細胞腫の症状

皮膚肥満細胞腫は、初期段階では痛みやかゆみなどの症状がないのが一般的です。
多くの場合、愛犬が元気な状態で「ただのしこり」として偶然発見されます。
しかし、病気が進行すると皮膚だけでなく、体全体に症状を引き起こす場合があります。
ここでは皮膚肥満細胞腫の特徴的な症状をみていきましょう。
皮膚に現れる症状
犬の皮膚に肥満細胞腫ができると、次のような変化がみられる場合があります。
- 初期は無症状で、ただのしこりだけがある
- しこりの周囲が赤くなったり腫れたりする
- 犬が強いかゆみを感じて気にする
- しこりの周囲に皮下出血が起こる
- 皮膚がえぐれたような潰瘍ができる
- しこりの大きさが日によって変わる
中でも注目していただきたいのは、しこりの大きさが短期間で変化する点です。
急にサイズが変わることがあり、
「小さくなったから治った」
と思いがちですが、この変動こそ肥満細胞腫を疑う重要なサインです。
また、皮膚肥満細胞腫には「ダリエ徴候」という特徴的な反応もみられます。
ダリエ徴候は、しこりを軽くこすると赤みや腫れが一時的に強くなる現象です。
ただし、しこりを触るとダリエ徴候を誘発し、症状が悪化することがあるので注意しましょう。
全身に現れる症状
腫瘍からヒスタミンなどの物質が大量に放出されると、犬の体全体に以下のような症状が現れることがあります。
- 元気がなくなる、食欲が落ちる
- 嘔吐や下痢を繰り返す
- 胃や十二指腸に潰瘍ができる
- 血圧が下がって循環不全を起こす
- 出血しやすくなる
- まれにアナフィラキシーショックを起こす
特にヒスタミンが大量に放出されると、胃潰瘍や消化管出血につながる危険があります。
重症では血圧が急激に低下し、命に関わるショック状態に陥ることも少なくありません。
愛犬の皮膚にしこりがあり、元気や食欲の低下・嘔吐も重なっている場合は、早急に動物病院を受診しましょう。
犬の皮膚肥満細胞腫の検査
愛犬に皮膚肥満細胞腫の疑いがある場合、腫瘍の「悪性度(グレード)」と「進行度(ステージ)」の見極めが大切です。
同じ肥満細胞腫でも、手術だけで完治が期待できるタイプから内臓に転移しやすいタイプの物もあり、見た目では判断できません。
そのため動物病院では複数の検査を組み合わせて評価を行います。
細胞診
肥満細胞腫が疑われた場合、まず行われるのが細胞診です。
細胞診では細い針をしこりに刺して細胞を採取し、顕微鏡で確認します。
肥満細胞は見た目に特徴があるため比較的高い精度で診断でき、麻酔不要で愛犬への負担が小さい点もメリットです。
ただし細胞診だけでは悪性度を正確に判定できないケースもあり、追加の検査が必要になることもあります。
病理組織検査
病理組織検査は、肥満細胞腫の確定診断と悪性度の評価に欠かせない検査です。
手術で切除した腫瘍を詳しく調べることで以下の情報が得られます。
- 腫瘍の悪性度(グレード)はどの程度か
- 手術で腫瘍を十分に取りきれているか
- 今後の再発リスクはどの程度か
悪性度の判定にはいくつかの分類方法があり、腫瘍を2〜3段階に分けて評価します。
画像検査
画像検査は、腫瘍が体の他の部位に転移していないかを調べる目的で行われ、必要に応じて以下を組み合わせます。
- レントゲン検査
- 超音波(エコー)検査
- CT検査
これらの画像検査は手術などの治療プランを決める上で、非常に重要です。
遺伝子検査
肥満細胞腫の中にはc-kit(KIT)遺伝子に変異が起きているタイプがあります。
この変異の有無を調べることで、分子標的薬と呼ばれる薬が効果的かどうかを予測できるケースがあります。
遺伝子検査の結果は、手術後の追加治療を検討する際の重要な判断材料です。
犬の皮膚肥満細胞腫の治療法

皮膚肥満細胞腫の治療では、外科手術を柱として、悪性度や発生部位に応じて複数の方法を組み合わせることが基本方針です。
愛犬の状態に合わせた治療で、完治や生活の質(QOL)の維持を目指します。
ここではそれぞれの治療について詳しくみていきましょう。
外科手術
外科手術は肥満細胞腫治療の第一選択です。
悪性度が低く転移がない場合は外科手術で完治が期待できるケースも少なくありません。
ただし肥満細胞腫は見た目の範囲を超えて広がっていることがあり、以下のような部位では十分な切除が難しい場合があります。
- 足先・四肢の先端
- 顔面
- 会陰部(おしりまわり)
外科手術のみで腫瘍が取りきれない場合は、術後に放射線療法や抗がん剤治療が併用されることもあります。
放射線治療
放射線治療は手術で腫瘍を取りきれなかった場合や追加治療が必要な場合に選択される治療法です。
残った腫瘍細胞に放射線を当てて再発リスクを下げる効果があり、何回かに分けて照射を行います。
照射部位の皮膚炎や被毛の変色が起こることがありますが、多くは治療後に回復が見込めます。
抗がん剤治療(化学療法)
抗がん剤治療は悪性度が高い場合や転移がみられる場合に選択される治療法です。
食欲低下や嘔吐・下痢といった副作用が出る場合があるので治療中は注意深いモニタリングが必要になります。
使う薬や期間は愛犬の状態によって異なるため、獣医師と相談しながら決めていくことが大切です。
ステロイド薬
ステロイド(主にプレドニゾロン)は、犬の肥満細胞腫に対して腫瘍の縮小や炎症・腫れを抑える効果が期待できる薬です。
特に、手術前に腫瘍を小さくして切除しやすくする目的や、悪性度が高い肥満細胞腫で化学療法と併用する際によく使用されます。
ただし、ステロイドだけで肥満細胞腫を根治できることは少なく、あくまで手術や抗がん剤などを補助する治療として位置づけられています。
長期投与では多飲多尿などの副作用がみられることがあるため、獣医師の指示に従って適切に使用することが大切です。
分子標的薬
c-kit遺伝子に変異がある場合には、トセラニブなどの分子標的薬が治療の選択肢に加わります。
分子標的薬はがん細胞が増える際の特定の経路を遮断する仕組みで、従来の抗がん剤とは作用が異なります。
食欲低下や下痢などの副作用が出る場合もありますが、抗がん剤に比べ副作用が出にくいです。
皮膚肥満細胞腫から愛犬を守るために家庭でできること
皮膚肥満細胞腫の治療では、動物病院での処置に加えて、飼い主様のご家庭での観察やケアも大切な役割を果たします。
ここでは日常生活で実践していただきたいポイントをお伝えします。
日頃のスキンシップでしこりを早期発見する
肥満細胞腫は初期には症状がないことも多く、発見が遅れがちです。
週に1回程度、全身を優しくなでながらしこりや赤みの有無を確認する習慣をつけましょう。
特にチェックしたい部位は以下のとおりです。
- 首まわり
- 脇の下
- 胸やお腹
- 足先
- 尻尾の付け根
もし、しこりを見つけたら、早めに動物病院を受診してください。
診断後はしこりを必要以上に触らない
肥満細胞腫には刺激でヒスタミンなどの物質を一気に放出する特性があります。
飼い主様が心配のあまり何度も触ると、腫れの悪化やかゆみなどを招くことがあります。
まれにアナフィラキシーショックを起こす危険もあるため、診断後は獣医師の指示がない限りしこりに触れる回数を最小限にしてください。
しこりの変化を記録に残す
肥満細胞腫は短期間で大きさや色が変わることがあり、その記録は獣医師の判断材料として非常に重要です。
スマートフォンなどで定期的にしこりの写真を撮り、大きさや色をメモしておきましょう。
術後も定期検診を続ける
肥満細胞腫は手術で完全に取りきれても、再発や新たな腫瘍が発生する可能性があります。手術後も定期的に動物病院で経過を確認してもらいましょう。
7歳を過ぎたシニア期の愛犬には、年に1〜2回の健康診断もおすすめです。
まとめ
犬の皮膚肥満細胞腫は、見た目や触った感触だけでは良性・悪性を判断できない厄介な悪性腫瘍です。
しかし、悪性度が低い段階で発見して適切な手術を行えば、完治を目指せるケースも少なくありません。
早期発見・早期治療こそが愛犬の未来を大きく左右します。
悪性度が高い場合でも、抗がん剤や分子標的薬を組み合わせることで病気の進行を抑えられる可能性があります。
愛犬の皮膚に気になるしこりや変化を見つけたら、
「もう少し様子を見よう」
と迷わず、どうぞお早めに当院へご相談ください。
よくある質問(Q&A)
Q.犬の皮膚にできたしこりは、すべて肥満細胞腫ですか?
A.いいえ、すべてが肥満細胞腫ではありません。
犬の皮膚のしこりには良性腫瘍から悪性腫瘍まで多くの種類があり、見た目での区別は困難です。
しこりに気づいたら動物病院で検査を受けることが大切です。
Q.肥満細胞腫は手術をすれば必ず治りますか?
A.悪性度や進行度によって異なります。
悪性度が低く十分な範囲で切除できれば、手術だけで完治が期待できることもあります。
一方、悪性度が高い場合や転移がある場合は、抗がん剤・放射線治療などの併用が必要です。
Q.肥満細胞腫を予防する方法はありますか?
A. 残念ながら、確実な予防方法は見つかっていません。
ただし、飼い主様が日頃から愛犬の体を触ってしこりを確認する習慣をつけると、早期発見・早期治療につなげることが可能です。
Q.一度治っても再発することがありますか?
A. はい、再発の可能性があります。
特に悪性度が高い場合は同じ場所に再発したり、リンパ節や肝臓などに転移したりするケースが報告されています。
別の場所に新たな腫瘍ができることもあるため、治療後も定期的な通院が大切です。
Q.肥満細胞腫に痛みはありますか?
A.初期には痛みがないことも多く、飼い主様が気づかないまま過ごすケースもあります。しかし進行して炎症や潰瘍を伴うと痛みが生じ、ヒスタミンの放出で強いかゆみに悩む犬も少なくありません。
Q.しこりの大きさと悪性度は比例しますか?
A.大きさと悪性度は必ずしも比例しません。
小さくても悪性度が高いケースや、大きくてもおとなしい性質の場合があります。
大きさで判断せず、動物病院で検査を受けて正確に評価してもらうことが重要です。
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